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映画『引っ越し大名!』の感想

映画『引っ越し大名!』の感想

*この記事には、作品のネタバレが含まれています。

休日の午後、夫婦で品川プリンスホテルの水族館に行ったあと、夕食までにはまだ時間があったので、ホテル内の映画館に寄ることにしました。

東京の映画館に行くのは実に40年ぶり。それでも田舎と同じ東宝系の映画館だったので、チケットの買い方は同じはず。でも、どの映画が空いているのか分からなかったことと、自動販売機で後ろの人を待たせるのも心苦しく、並んでいる人の列の後ろを二人でうろうろしながら、結局窓口で購入することにしました。

窓口の感じのいいお姉さんに空席状況を聞くと、待ち時間なく観れるのは『引っ越し大名!』とのこと。夫のほうをふりかえると、うんうんと嬉しそうに頷いています。私は他に見たい映画があったのですが、そちらはもう一回待たなければならなかったので、すぐに入れる『引っ越し大名!』にしました。

待ち時間の間、売店でポップコーンとコーラを買うと、ひとり分の量の多さにびっくり。少し気恥ずかしさを感じながら入場開始までしばらくエントランスの隅で待っていました。

開演10分前に入場し、真ん中より2、3席後ろの座席に座って映画が始まるまでのあいだポップコーンを食べ、コーラを飲み、これがまたとめどなく続きやめられません。そういえば今日は朝食が遅かったのでお昼を食べていなかったなと気づき、始まる前に半分以上は食べてしまいました。

いよいよ映画が始まると、これがまた時代劇の割にテンポの良い展開で、なにより主役の星野源さん演じる引越し奉行「片桐春之介」の人となりにすっかり魅了され、思わず引き込まれていきました。

この映画の原作は、実際に生涯7回も国替えをさせられた江戸時代の実在の大名がモデルになっています。会社の方針で突然の転勤も余儀なくされる現代のサラリーマン事情にも通じ、そんなところが夫にも興味をもたせたのかもしれません。

そういえば、夫はテレビのロードショーで『超高速! 参勤交代』を観てすっかりはまり『超高速! 参勤交代リターンズ』をわざわざ映画館まで観に行ったほど。どの映画にするか決めたとき、夫が『引っ越し大名!』に間髪入れずに頷いたのも無理からぬこと。

あとで調べたら監督こそ違いましたが原作は同じ作家さんでした。かくいう私も好きな俳優のひとり、高橋一生さんも出てきたので、いよいよ中身に入り込み、一緒になって笑い転げてしまいました。

面白かったのは、「引越し唄」のくだり。この唄、引越しの準備からいよいよ出発、道中と場面場面で歌われるのですが、星野源さん始め高畑充希さんら登場人物みんなで歌って踊って士気を高めるというもので、歌詞もメロディーも馴染みやすく、なにより振付が滑稽で、時代劇なのに違和感がありません。

農民が農作業をするときの田植え唄などが現代に伝わっているように、お家の難事を家臣が共に乗り越えようと、皆の心をひとつにまとめるのに、もしかしたら実際にそんな唄が歌われていたのでは、と思わせてくれます。それと、エンドロールで初めて知りましたが、振り付けは狂言師の野村萬斎さんでした。独特のリズムがあり、時代劇に違和感なく馴染むわけです。

お決まりの悪人も登場し、裏切りあり、恋愛あり、なんだかんだとあって結局最後は正義が勝つ、という単純だけどそんなストーリーは観ていてホッとします。

作中、特に感動したのは、国替えで領地が減らされたとき、家臣を減らさなければならなかった春の介の葛藤でした。リストラを余儀なくされた中間管理職の苦悩にも通じ、サラリーマン経験のない私にもその苦しさは伝わってきました。

そのときの春之介の決断と、その後15年を経て必ず呼び戻すという約束を果たした誠実さ。最後、農村から戻って来た同志と、途中命を落とした人々の名前を刻んだ石碑を披露したくだりでは、本当にそんなこともあったのだろうと心打たれました。

夫はこの場面で、鼻をすすっていました。夫の会社でも、何年か前に大量リストラの時期があったのを思い出し、きっと色々な思いが交錯したのでしょう。私もしんみりしてしまいました。

観終わって、久しぶりに昔誰かが言っていた「映画って本当にいいですねぇ」という言葉をしみじみ実感。映画の醍醐味を懐かしさとともに味わいました。

映画館を出るとすっかり夕暮れどきになっていました。駅前の交差点を二人で雑踏をよけながら歩き、今日はやっぱり日本酒だよねと、品川駅の駅中にある「ぬる燗佐藤」というお店で、文字通りのぬる燗を一杯飲みながら軽い夕食をとって帰りました。